PolyMLのpretty printerをユーザ定義する
Poly/MLというStandardMLの処理系があります。
このPoly/MLの提供するREPLでは、入力した式の値をエコーバックする際に使用するプリンタ(REPLの'P')をSML自身のコード内で指定することができます。
この記事では Poly/ML のREPLのpretty printerを部分的に上書きして、ユーザ定義のデータ型の表示をカスタマイズする方法を紹介します。
Poly/ML(version 5.5.1 または 5.5.2)を使用します。古いバージョン(5.5系以前)から仕様が変更されているようなので注意して下さい。
モチベーション
デフォルトで用意されているプリンタは優秀なので通常困ることはあまりありませんが、
入り組んだユーザ定義型の値の場合、いちいちコンストラクタが表示に含まれると内容が把握しづらくなることがあります。
例えば典型的な定義のjson型の値は、以下のようにいちいちコンストラクタが表示され、読みづらくなっています。
> Json.sample; val it = JArray [JBool true, JBool false, JNull, JInteger 31412341234, JObject [("foo", JString "foos foosss..."), ("bar", JString "bars barsssszzzz.."), ("bazz", JArray [...])], JString "aaaaaaabbbbbbdddeeeeeee"]: JSON.value >
これを例えば、通常のjsonとして表示するようなプリンタに差し替えることが出来れば、以下のように
> Json.sample; val it = [ true, false, null, 31412341234, { "foo":"foos foosss...", "bar":"bars barsssszzzz..", "bazz":[ "bazzs", null, 141421356 ] }, "aaaaaaabbbbbbdddeeeeeee" ]: JSON.value >
リテラルそのままの見易い表示にすることが出来るはずです。
Poly/MLは、以上のようなREPLのP(プリンタ)を差し替える機能を提供しています。
以降の章では、上で示したユーザ定義jsonプリンタの構築を例として使い方を解説します。
前提
以下のようなディレクトリレイアウトを前提として話を進めます。
$ ls Json/
JsonTy.sml ml_bind.ML
つまりカレントディレクトリで PolyML.make "Json"; とすると structure Json (+ JsonTy)がロードされます。
これから編集していくのは Json/ml_bind.ML (が公開する structure Json) です。*1
JsonTy.smlはjsonの型だけを提供するファイルで、以下のように型定義のみから成ります。
(* JsonTy.sml *) structure JsonTy = struct datatype value = JObject of (string * value) list | JArray of value list | JNull | JBool of bool | JInteger of IntInf.int | JReal of real | JString of string end
始まりのプリンタ
最も簡単なプリンタの定義として以下の定義からはじめます。
(* ml_bind.ML *) open PolyML JsonTy structure Json = struct fun pretty _ _ _:t = PolyML.PrettyString "<json>" end val () = PolyML.addPrettyPrinter JsonTy.pretty;
これを使ってみると:
> PolyML.make "Json"; > JsonTy.JInteger 314; val it = <json>: JsonTy.t > JsonTy.JBool true; val it = <json>: JsonTy.t >
JsonTy.t型の値は全て
ここで定義した JsonTy.pretty を有用な表示をするように改善していきます。
プリンタの登録
上のように、定義したプリンタをREPLが使用するようにするには、専用に提供されている関数 PolyML.addPrettyPrinter を使い、型とそれに対応するプリンタの組を登録します。
PolyML.addPrettyPrinter : (int -> 'a -> 'b -> pretty) -> unit
この関数が要求する関数が登録するプリンタで、定義は以下のようになってい(るものとして説明し)ます。
fun printer depth (* 深さ *) printArgTypes (* 引数のプリンタ *) value (* 表示する値 *) = ...
- 第1引数は表示する深さです。データ構造のどこまで深い階層まで表示するのかを表します。この値が0以下の場合は PrettyString "..." を返してください。
- 第2引数は扱おうとしているデータ型に型変数があった場合、その型用のプリンタが渡されます。今回は型変数を扱いませんので、この値は単に捨てます。
- 第3引数は表示しようとしている値です。
プリンタの実装
プリンタは、表示を指定したい型に対応する pretty 型の値を構築して実装します。
datatype PolyML.pretty = PrettyBlock of int * bool * context list * pretty list | PrettyBreak of int * int | PrettyString of string
PrettyString
まず最も簡単なものから。
PrettyString はその場で(単一の行内に)表示するための文字列を表します。 "true" とか "()" などの改行を挟む余地のない要素の表現に使います。
fun pretty value = case value of Ty.JInteger x => PrettyString (LargeInt.toString x) | Ty.JString s => PrettyString ("\"" ^ s ^ "\"") | Ty.JReal r => PrettyString (Real.toString r) | Ty.JNull => PrettyString "null" | Ty.JBool b => PrettyString (Bool.toString b) | _ => raise Fail "undefined"
これを使うと以下のようになります。
> JReal 3.14; val it = 3.14: T.value > JString "hoge"; val it = "hoge": T.value > JInteger 4242; val it = 4242: T.value
ちゃんと(?)コンストラクタが表示されなくなりました。
PrettyBlock
PrettyBlock は他のプリンタの集合を一つのまとまったプリンタにするコンストラクタです。
PrettyBlock of int * bool * context list * pretty list
- 第1引数はこのブロックの表示全体のインデント増加数を指定します。
- 第2引数は改行の一貫性指定です。true を指定すると、このプリンタの扱う要素のいずれかの表示が1行に収まらない場合、すべての「改行するかも知れない場所」で改行します。
- context listはユーザが任意に持ち回れる値ですがここでは割愛します。常に空リストで問題ありません。
- pretty listはそのブロックを構成する子要素のプリンタの集合です。
fun interleave [] _ = [] | interleave [x] _ = [x] | interleave (x::xs) s = x::s::interleave xs s fun pretty value = case value of ... => ... | ... => ... | Ty.ARRAY xs => P.PrettyBlock (2, true, [], [P.PrettyString "["] @ interleave (map pretty xs) (P.PrettyString ",") (* コンマで区切る *) @ [P.PrettyString "]"])
これを使ってみると:
> JArray [JInteger 314, JString "hoge", JArray [JReal 1.4, JNull]]; val it = [314,"hoge",[1.4,null]]: value
カンマで区切られて大分すっきりした表示になりましたが、スペースが全く無いので多少窮屈ですね。
PrettyBreak
残ったコンストラクタ PrettyBreak は要素間のスペースと改行時のインデント増加数を指定します。
datatype PolyML.pretty = ... | PrettyBreak of int * int (* スペース, インデント *) | ...
これを使って json array の表示を改良します。
fun pretty value = case value of ... => ... | ... => ... | JArray xs => let val pxs = map pretty xs (* Arrayの各要素のプリンタ *) fun split xs = foldr (fn (x,[]) => [x] | (x,xs) => [x, comma, PrettyBreak(1,0)] @ xs) [] xs in P.PrettyBlock (indent, consistent, [] (* 括弧 '[' + スペース *) , [bracket_open , P.PrettyBreak(1, 0)] @ (split pxs) (* インデント浅く + 括弧 ']' *) @ [P.PrettyBreak(1,~indent), bracket_close]) end
括弧開く '[' の時点でインデントが入っているので、閉じる ']' 時にのみ符号を反転してマイナスのインデントを指定します。
では実際に大きめのJson Arrayで確認してみます。
> JArray [JInteger 314, JString "hogehogehoge", JArray [JReal 1.4, JArray [JNull, JBool true, JBool false, JNull, JString "foo bar bazz"]]]; val it = [ 314, "hogehogehoge", [ 1.4, [ null, true, false, null, "foo bar bazz" ] ] ]: value
要素間のスペース、ブラケットの内側で必要に応じた改行と必要に応じたインデントが追加され、より大きい構造を持つ値も見やすく表示されるようになりました。
まとめ
Poly/MLのREPLを使う際、処理系の提供する関数 addPrettyPrinter を使って JSON型 のプリンタを上書きすることが出来ました。
これは型の定義とは独立して(ml_bind.MLで)定義;設定するため、既存のコードを変更せず導入できます。
もちろん同様の方法で任意のユーザ定義型についてプリンタが設定可能なので、デフォルトの表示で不満がある場合は、適宜プリンタを変更して快適にREPLを使いましょう。
ここで紹介した実装(を元にしたprinter)全体はgitに置いてあります。
- 実装全体@github https://github.com/eldesh/ppjson_polyml
- PolyML.PrettyPrint http://www.polyml.org/documentation/PrettyPrint.html
*1:PolyML.makeするとml_bind.MLというファイルを探して自動的に読み込んでくれます